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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)10534号 判決

原告 渋谷留三郎

被告 国

代理人 田島優子 勝又清

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地について別紙登記目録記載の抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という。)を所有している。

2  本件土地には、別紙登記目録記載の抵当権設定登記(以下本件登記という。)がなされている。

3  右抵当権の被担保債権は、弁済期たる明治三八年四月一五日から一〇年を経過した大正四年四月一五日をもつて時効により消滅した。

原告は、本訴において右時効を援用する。

4  右抵当権者たる訴外棟秀彦龍は、大正一二年一一月八日死亡し家督相続人なく絶家となつた。そこで、残余財産は国庫に帰属し、本件登記の抹消登記手続をなすべき義務も国に帰属した。

5  よつて、原告は、被告に対し、本件土地の所有権に基づき請求の趣旨記載の登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は不知。

4  同4の事実のうち訴外棟秀彦龍が原告主張のころ死亡したことは認め、その余の事実は不知。

本件登記の抹消登記手続義務が国に帰属したとの点については争う。

訴外棟秀彦龍については、戸籍法上、戸主死亡後に放置された戸籍を整理するための手続として絶家として扱われているが、このことによつては実体法上の絶家は確定せず、同人の相続財産はいまだ国庫に帰属したとは認められない。

第三証拠関係 <略>

理由

一  原告は、訴外棟秀彦龍が相続人なく死亡したことにより同家は絶家となり、相続財産が国庫に帰属し、本件登記の抹消登記手続義務が国に帰属した旨主張するのでこの点につき検討する。

二  旧民法七六四条にいう絶家とは、戸主を失つた家に家督相続人なき場合をいうが、家督相続開始当時に法定相続人がいなくとも指定又は選定により家督相続人となるものがある(同法九七九条ないし九八五条)から、右手続で新戸主が定められることなくかつ相続人曠欠の手続(同法一〇五一条以下)が尽くされ家督相続人としての権利を主張する者がないことが確定した場合において、はじめて家督相続人の不存在が確定し、絶家の効力も確定し、相続財産が国庫に帰属することとなる。

三  そこで本件をみるに、<証拠略>によれば、訴外棟秀彦龍の身分事項欄に「家督相続人ナキニ因リ絶家昭和拾四年五月拾八日附越ヶ谷区裁判所ノ許可ニ依リ同月貳拾日本戸籍ヲ抹消ス」と記載されているが、ここにいう絶家は、戸主死亡後に放置された戸籍の整理のための戸籍法上の手続であつて、直ちに実体法上の絶家の効力を生じさせるものではない。そこで、後日絶家の戸籍記載に反する事由が判明すると、家の制度が廃止された新民法施行下においては、戸籍復活の手続を経ずに、新民法付則二五条二項により処理される(昭和二三年一二月一五日民事甲第二三二一号法務省民事局長回答)。

従つて、訴外棟秀彦龍の相続については、新民法が適用され、それにより相続人の存否を確認する必要があるとともに、仮に相続人が不存在であると更に同法九五一条以下の手続を尽くしてなお積極財産が残存した場合にはじめてそれが国庫に帰属することとなる。

四  ところで本件全証拠によるも、旧民法時代に訴外棟秀彦龍について新戸主の選定又は相続人曠欠の手続がなされたことを認めることはできないし、新民法下において前記手続を尽くしたことも認めることはできない。そうであると、訴外棟秀彦龍については旧民法時から今日まで前記各手続が経由されていないのであつて、同人についての絶家の効力は未確定であり、同人の相続財産はいまだ国庫に帰属していない。

五  よつて、被告国は、原告に対し、本件登記の抹消登記手続をすべき義務はなく、原告の請求はその余について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井眞治 田中澄夫 矢部眞理子)

物件目録 <略>

登記目録 <略>

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